【ネット】ちょっと見てきて
デイリーポータルZのサービスなので、知ってるひとも多いだろうけど。
ネタがない日は、特にこだわらず、ストックから放出。
懐かしい場所気になる場所があるんだけど今すぐ見にいけない、ってひとのために、行けるひとがリポートしましょう、という趣旨。
自分に直接関係なくても、だれかにとっては思い入れのある場所だから。そのだれかのために時間を使う。
そんなやさしい双方向性で成り立っているってのは、この規模のサイトになると、ちょっと珍しいかもしれない。
せっかくこのサイトをネタにするんだから、なにかおもしろい「見てきて」はないかと探してみると。
うん、探すの面倒だ。
面倒だけど、それでも探してみた。
鳥がかわいい茨城・洞峰公園とか、やっぱり鳥がかわいい神奈川・夢見ヶ崎動物公園とか。
あとは、なにか怪しいゾーンの入り口が垣間見えるかもしれない、徳島・世界一見つけにくい喫茶店(仮)や、愛知・田圃の中のスク水女子中学生(仮)なんかは、いろいろと想像力を掻き立てられる。
宮崎・最奥の集落とか北海道・人形屋の店舗とかは、そこにいるひとたちのドラマを想起せずにはいられない。
そうやってぱらぱらと見ていくと、こういうところに創作のエッセンスが詰まっているんじゃないか、と思えてきた。
それぞれの場所を、物語の起点とするか終点とするか。
それだけで、ドラマは広がっていける。
あー、そうそう、「見てきて」の一覧を見ながら、なにか覚えのある雰囲気だなと思っていたら。
某ナイトスクープに似ていると気づいて、安心感とやさしさとユルさに、納得。
「ほら、早く」
ちらちらと陽が揺れる山道、ぼくは目的地へ近づいている実感に突き動かされ、後ろについてきているユウキを呼ぶ。
「近いのか?」
疲れを隠そうともせずに、ユウキ。無理もない。二人旅の途中、ぼくの思いつきでここまで歩かされたんだから。
でも、ぼくは、あの場所を、彼にどうしても見せたかった。大切なものを共有する、親友としての彼に。
「うん、もうだいぶ近いと思うよ」
「そうか」
ユウキは短くそう言っただけだった。
なんでだろう。ぼくは何度目かの自問をする。この行程に、ユウキが乗り気でないことは最初から明らかだった。いつものぼくと彼の関係なら、その時点で、もう話は終わっている。
けれど、今回だけは、なぜか譲れなかった。自分でもわからない、なにかの理由で、どうしても一緒に行きたかった。
なんでだろうとはずっと思っている。でも、その思いより先に、身体が動いている。
だって、そこに、素晴らしいものが待っているんだ。不思議な感覚。自分では進もうと意識していないようなのに、足が勝手に歩を刻む。後ろなんか見てもいないのに、ぴったりとユウキがついてきているのがわかる。呼吸と風のリズムが一致している気がする。ちらちら、ちらちらと陽が右からも左からも前からも後ろからも顔を覗かせる。
ふと、額になにかの雫がかかった。
その冷たさに、どこかにいた素のぼくが起き上がった。
そういえば、ここの近くまで来たとき、なにか嫌な予感がしていたのはいつだったっけ。
この山には近づきたくない、と感じたのは、いつだった。
なんでもないところで脚が動かずに躓いたのは、いつ‥‥
‥‥そんなものは忘れた。ぼくは歩いている。ユウキがいる。そして、もうすぐ、ほら、開けたあの場所に着く。
そこは、きっと、ぼくとユウキにとって、忘れられない場所になる。